■旅日誌
[2007/9] DMV試乗
(記:2007/10/6 改:2015/11/1)
(記:2007/10/6 改:2015/11/1)
JR北海道が開発したDMV(Dual Mode Vehicle)の試乗会に行くことになり、急遽網走まで出掛けることにしました。簡単に言ってしまえば、マイクロバスをレールの上でも走れるようにしてしまおう、という発想の乗り物ですが、なかなか楽しかったです。折角の三連休でしたが、仕事も忙しく今回は飛行機で女満別往復。網走で一泊はしましたが、翌朝一番の便で帰ってきました。
※下線部をクリックすると写真が表示されます
※下線部をクリックすると写真が表示されます
1日目
DMV(Dual Mode Vehicle)と少々聞きなれない乗り物がある。これはJR北海道が開発したもので、鉄道とバスの両方の機能を兼ね備えており「夢の乗り物」などと紹介されることもある。実際にはマイクロバスをベースに鉄道の線路も走れるように足回りを改良したものである。北海道という土地柄、大勢の人が一度に移動するというのも限られた範囲であって、小回りが効かない鉄道を広く維持し続けることがどれほど厳しいかなど今に始まった話ではなく、採算が合わなくなった赤字路線は軒並み廃止の憂き目にあっていた。一方で定時運行性ということを考えると、鉄道の優位性は大きい。渋滞もないし、特に冬の時期の天候にも比較的強い。そこでバスと鉄道の"いいとこどり"をしてやろうというアイデアがことの発端となり、最近になって実用化がみえてきたというわけだ。過疎化や鉄道離れなど地方受難のこのご時勢に、まさに発想の転換から生まれたものともいえる。
DMVの試乗会は、この春頃から週末を中心に行われていた。話題性もあり人気もそれなりにあるようでほとんどの日程が予約で埋まっていたのだが、合間を縫って申し込みをかけてみると、うまく取れてしまった。試乗会といっても、お客さんを乗せているので実質は営業運転扱いとなる。(余談:線路上を走るときは貸切の専用列車として、道路を走るときも貸切のバスとして、JR北海道主催の企画ツアーに参加する形をとるようです。そのため旅行券をJR北海道の窓口で直接受けとらなければならないのですが、東京駅にもJR北海道のツインクルプラザがあって、そこで手続きを済ませることができます。)ところで、試乗会が行われてるのは釧網線の網走よりも先の方で、そこまで行くだけでもひと苦労である。今回はすきを狙って急遽申し込んだので飛行機で往復するしかなく、一番近い空港はというと、女満別空港になる。この空港に足を運ぶのも今回で二度目、前回は確か、西女満別駅まで歩いていくという訳の分からない行動に出てしまったが、実はそのルートをDMVで結ぶという実験も行われていたことがあった。
この週末は今月二度目の三連休にあたり、もともと女満別便はそれほど本数も多くなくJALもADOも予約でまんべんなく埋まってしまっていた。仕事の方もあまり余裕がなさそうだったので、連休の中日に朝一で渡道して、翌朝の一便ですぐ戻るようにキャンセル待ちを入れておいた。こちらも運よく両方とも予約がとれたので、これでDMVの試乗会へ参加できる見込みがたった。(余談:いつものように運のよさに賭けていいのか疑問ですが…。)9月半ば過ぎだというのに、東京は未だ残暑が厳しく30℃を優に越していた。それに比べ北海道の最高気温は20℃そこそこと、とても過ごしやすい陽気だった。ところが、秋雨前線に台風が後押しした形で天気予報は荒れ模様と出ており、そう聞かされてしまうと気持ちもややへこんでくる。女満別に近づき下りてくるときも、視界が開けたのはタッチダウン寸前の網走湖を通り過ぎようかというところだった。雨、風は強くないようだが、霧雨で視界が悪く少し寒々していた。
DMVに乗る時刻まではまだ少しあるので、当初は一足早い秋を感じに散策でもするつもりだったが、雨天コースのことまでは頭はまわっていなかった。と言っても空港に留まってても仕方ないので、バスで移動することにしよう。網走まではバスの本数も比較的多いのだが、最初から予定していた知床行きのバスがタイミングよく出るので、まずはそいつに乗り込む。上空からは見えなかったが、車窓には北海道らしい景色が続く。どうしようか最後まで迷ったが、網走を通過して予定通り小清水の原生花園まで行ってみることにした。ここには何があるか?と聞かれても、何もないとしか答えられないのだが、北海道でいう原生花園とは、手付かずの自然がそのまま残った草原湿地帯のことをいうらしい。濤沸湖の周囲にも自然の草花が一面に広がっており、季節によってその表情が変わるという。その脇を2、3キロ散策してみようかなと考えていたのだが、降ったり止んだりの雨の中歩き続けるのもいかがなものかと悩み始める。時折雨は強くなり、散策という雰囲気ではなくなったが、とりあえずバスを降りてしまうことにした。
バスを降りたところは駐車場や売店も兼ね備えた国道沿いのちょっとした施設となっており、原生花園駅とともに観光地になっていた。原生花園駅は季節営業の臨時駅で、今日は駅員も配置されていた。通りすがりの観光客相手にオレンジカードなどを売っていたが、肝心の釧網線はいつやってくるのか分からないくらい本数は少ない。駅の向こう側のちょっと高いところは展望台になっており、濤沸湖が一望できる。海の方に目をやると、広大なオホーツク海が広がっている。天気がよかったら、もっと晴々した気分になれだろうに…。時折吹きつける雨を避けるために、しばらく建物の中にいると、ちょうど列車が通り過ぎる音がした。そうか、手前の北浜にでも寄って来るんだったか、、、ここまできて自分の無計画ぶりを恨んでも仕方ない。更にここからお隣の浜小清水まで歩いて行くつもりだが、雨が強くなってきたのでもうしばらく待って、次の列車を見送ってから出発することにした。
30分くらいしたあと網走行きの快速が1両でやって来た。とりあえずその様子を遠くから眺め、はるか向こうの景色に消えていくのを確かめる。さっきよりも随分と視界はよくなってきてる。傘も必要なさそうなので思い切って歩き出すことにした。浜小清水までは、ゆっくり歩いたとしても30分くらいだろうか。湖を右手にして観光放牧された馬の様子など見ながら国道沿いに歩いていくと、偶然にもDMVが通り過ぎていくのが見えた。
そうこうして浜小清水へ到着、ここも国道沿いのドライブインといった感じで、道の駅として案内されていた。鉄道の駅の方がまったく目立たず、完全に脇役になっている。DMVが線路へ進入するときに通過するガイドウェイを見たり、お昼を食べたりして時間をつぶしているとDMVが戻ってきた。普通にバスが踏切を渡るのは当たり前の光景なのだが、列車として線路を通過することも考えると少し妙な感じもする。今日は記念撮影やインタビュー取材のようなことが行われていたが、どうやらPR用のDVDの撮影らしい。釧網線の下り列車を1本見送り、出発前の点検を見守りながら出発までもうしばらく待つことになった。
試乗会の募集人員は1回12名で1日3回実施される。クルーとしては鉄道の運転手とバスの運転手そしてガイド役の女性の計3名が乗るので、それだけで満席である。乗車前にバウチャー券を列車の乗車券とバスのチケットに引き換え、簡単な説明資料と乗車記念証やアンケートなどが入った袋を渡される。座席の指定はなく、車内が眺められるように一番後ろの席に座ってみた。出発してすぐにガイドウェイのところまで進み、モードチェンジが行われる。時間にして15秒ほど、ボタンひとつの操作で車体が少し浮き上がったらそれでもう作業はおしまい、あまりにもあっけない。いまの設備だとDMVの車体は列車と自動認識ができないので、人手による信号操作と確認作業が必要で多少時間がかかかってしまうのだが、本質的な障害ではない。スムーズなモードチェンジの様子からも、過去に克服できなかった課題の多くはほぼクリアされており、完成度は相当高いようだ。列車としてのDMVが浜小清水駅を出発し、ポイントを通過して本線へ進入する。エンジン音はマイクロバスそのものなのだが、確かにレールの上を走ってる感覚である。直接伝わるせいか、ガタンゴトンという響きは普通の列車に比べると少し強いようだ。ゴムタイヤと鉄輪を併用して油圧制御しながら動力を伝える方法として、除雪機メーカーのノウハウが使われていることなど、技術的にも興味深いことが多い。鉄道としては70キロくらいのスピードを出しても問題はないとのことなのだが、ダイヤを考慮して40~50キロで走行している。知ってか知らずしてか、沿線のギャラリーの数は予想以上に多く、いたるところでこちらに向けられる視線を感じた。
DMVは原生花園駅を通過しまっすぐ伸びた線路をひたすら走っていく。実は今朝の荒天と濃霧で釧網線は速度規制がかかってしまい、いくら本数が少ないといっても時速15~20キロまで制限がかかかるとダイヤに余裕がなくなり、隙間を使って走るDMVは運休を余儀なくさせられるところだったらしい。釧網線は視界不良で規制がかかることもそう珍しいことではなく、でもそのために試乗会が中止になったというのは過去には例がないという。やっぱり今日も運が味方してくれたのかもしれない。北浜を通過しのんびりと走ってると、曇天だった雲は晴れ渡り、いつのまにか強い西日まで差し込んでくるようになっていた。ガイド役の方もこれには驚かれた様子で、ずっと続いていた晴れ男ぶりはここへ来ても証明されることになってしまった。(後日談:このあと流氷を見に冬のオホーツク海を訪れる機会がありました。旅日誌はこちらをご覧ください。)
藻琴駅でこんどは鉄道からバスへモードチェンジされる。同時に運転手も交代し、JR北海道の運転手はここで下車することになった。バスと鉄道で運転手が二人必要(仮に一人だったとしても二種類の免許が必要)というのはDMVの弱い部分だという指摘もあるが、会社間の相互乗り入れと考えれば別に致命的なデメリットだとは思えない。今回の試乗会でいえば、JR北海道は当初からパートナーとなるバス会社を探しており、最終的には網走バスとタッグを組むことになったが、まったく違和感はない。(追記:車体にもしっかりと網走バスの文字が記されていました。鉄道とバスが組むというのは、デメリットどころかうまくいけばWin-Winなんじゃないのかな??)バスにモードが替わったあとは、ごく自然に道路を走るだけなのだが、車重も影響してか路面の状態が悪いと少し揺れが強いようだった。しかし、運転手さんもそこは心得ており、丁寧な運転は非常に好感が持てた。春先のコースに比べ今回の周回コースは距離も伸びてより、より景色も楽しめる場所が選ばれていたようである。来月からまたコースが変わるとのことだが、今回のコースの方がいいようにも思えた。ガイドさんからは秋に向かった季節の移ろいなども案内され、最後は♪大空と大地の中で、の歌声での締めくくりとなった。試乗会ということなので、ちょっと乗り心地を確かめる程度かと思ったが、結構内容の濃い楽しい時間を過ごすことができた。(後日談:このガイドさんにはもう一度お会いする機会がありました。)
起点の小清水駅まで戻り、ここで一旦解散となる。ほとんどの人がガイドさんとともに降りてしまったが、3便目のこの便は希望すれば網走まで乗車することができる。最後まで周囲の視線を集めながらDMVは国道を進み、やがて網走駅へ到着、どこまで回送されるのか分からないが、DMVを見送ってここで最後の解散となった。明日は朝一での帰京なので、とても名残惜しいが、とりあえず何か美味しいものでも食べておこうと思う。明らかに昼間よりも気温は下がってきており、北海道はもう秋に差し掛かっているんだな…とあらためて実感した。(後日談:残念ながら2015年8月に実用化断念の発表がありました。)
2日目
できればあと数時間でも居残りたい気持ちはあった。欲をいえば三連休の初日から来れればもっと楽しかったのかもしれないが、仕事が少し残っているのも気がかりだし、あの空模様の状況からすると、結構タイミング的には間違ってなかったのでは?と自分を言い聞かせておく。まぁ、何を言っても負け惜しみみたいなところはあるが、最後のあがきとしてひとひねり入れておく。まずは石北線の普通列車で美幌へ向かい、そこから女満別空港行きのバスに乗ろうと思う。休日の朝のローカル線は本当にガラガラで、ボーっとしながら車窓に目を向ける。何だかそんな時間を過ごしてるだけで不思議と落ち着きを感じる。女満別で何人か降りていき、更に人の数が減る。美幌で降りたのもひとり、ふたり、といった程度だった。駅前へ出ると、客待ちしてるタクシー以外は、まったく人の気配が感じられない。昔のSF劇画のように、人間が蒸発してしまったかのような状態である。こうなると本当にバスがやってくるか心配になってしまうが、1台の立派な観光バスがやってきて、自分ひとりのための貸切りになってしまった。