■旅日誌
[2009/4] 朝日に匂ふ山桜
(記:2009/5/4)
(記:2009/5/4)
突然の思いつきでしたが、大分へ出向いてきました。今回は週末使っての単純な往復です。ほとんど計画なしでしたが、レンタカーを使っての行き当たりばったりもそれなりに楽しめました。特に桜が見頃を迎えていたのが印象的でした。
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1日目
今年の桜は暖冬のためか開花宣言は早く出ていたようだが、その後気温の低い日が続き満開になるまで時間がかかっていた。別に狙ったわけではないが、この週末は各地から桜の便りが聞こえてきていた。どうやらちょうど見頃を迎えたタイミングのようである。さて、今回の行き先は大分、去年の12月に通ったばかりだったし過去にも立ち寄ったことはあったが、何となく気になる場所が多かったのであまり欲張らず単純に往復するだけしか考えてない。さて、出発当日、東京の天気はまずまずだったものの九州地方は雨の予報が出ている。いつものように少し早めに家を出て羽田で出発までの時間をつぶすことにした。行きの大分便の機材はA320、小型機ならB735よりもこっちの方が好みなのは前にも書いたとおりだが、思ったよりも機内の空席は少なかった。離陸後、東京湾上空を右旋回しながら高度を稼いで進路を西へ向ける。今日は本州に沿った形で雨雲が横たわっており、気流の悪い箇所がところどころにあるようだった。
雲の中を抜け豊予海峡が見えてきたときには既に着陸の直前だった。今日は非常にソフトな感じにタッチダウン、無事にへ到着した。外は予報通りの雨、何となく今日は晴れてくる感じがしない。到着ロビーを抜け、すぐさまレンタカーの受付窓口へ向かうとちょうど送迎の車が出るところだった。営業所は通りを挟んだ空港の真向かいにあり、歩いても2、3分の距離である。早速手続きを済ませ、キーを受け取るときに「どこから来ました?今日はどちらに??」と聞かれたので「横浜から来たんですけど、どこへ行くかは全く決めてません」と正直に答えると「じゃぁ、カーナビの使い方を説明しますので、そのまま海地獄へ行かれてはどうですか?」と言われたので、その提案にのることにした。
途中、杵築を通るので、ちょっとだけ寄り道することにした。わずかな記憶を頼りに市街地へ入ってみたが、車が止められそうな場所がなかなか見つからず同じところを何度もまわってしまった。少し歩くかもしれないが、適当なところに車を止め、杵築城へ登ってみることにする。その後、かつての城下町の方まで足を延ばしてみると、武家屋敷跡など江戸期の面影を残すところがあり、なかなかいい雰囲気だったが、雨は降り続けてたのであまり長居せずこの場は退散することにした。再びカーナビの指示に従い国道213号に沿ってそのまま別府方面へ進む。海沿いへ出て道幅も片側2車線に広がり、しばらくしてから右折して鉄輪温泉に向かっていく。徐々に上り坂になり、さらに進んでいった先で海地獄と大きく書かれた看板を見つけ、適当な場所で車を置いておくことにした。
ここ別府で"地獄"といえば温泉が噴出す場所のことを指し、本当にあちこちで湯けむりが上がっていて、あらためて温泉地であることが実感できる。その昔、農耕地に湧き出す温泉は農民たちは悩ませるばかりで、迷惑千万この上なく邪魔な存在でしかなかったが、いつしかその様子を目当てに物見に来る人が集まり出し、そのうち観光バスで巡るほど賑わうようになったという。それが地獄めぐりの始まりらしいが、別府でも有名な観光地なので、機会があれば見ておくのもいいかなと思っていた。国道から少し入るといくつか駐車場があり、どこか置いておけば点在する"地獄"は十分歩いてまわれそうだ。どうやら一日観覧券なるものを買っておくとひと通りまわれる仕組みになっていて、一番奥の海地獄から順番に見ておくことにした。チケット売り場で半券を渡し中に入れるとすぐに大きな池があり、そのほとりにある桜の木は満開の花をつけていた。ここだけみればとても穏やかな美しい風景だが、間近に温泉が噴出すところがあるのも不思議な感じがする。その奥に進むと、コバルトブルーの池から白い湯煙が立ち上り、池の中では何やらブクブクやっている。池の底はその名の通り海のようなさわやかな青だが、硫酸鉄を含んだ温泉は100℃近くあり絶えず湧き出している。海地獄は周囲の地獄のなかでも一番大きい規模を誇っているという。また、敷地にある温室では温泉を引いているのか熱気でムンムンしており、可憐な蓮の花が咲いていた。地獄に蓮とはこれいかに??
続いて向かったのが鬼石坊主地獄、ここは長い間閉鎖されてたところを最近再開したのだという。どおりで全体的に施設が新しいように感じたが、粘土質の泥のところをゴボ、ゴボっとやってる様は何となく見入ってしまった。次の山地獄では、山裾から水蒸気が吹き上がっていて、その水蒸気の熱を利用してミニ動物園が併設されている。狭い敷地にはカバやゾウなどが飼育されていた。その次のかまど地獄は、地獄の一丁目から六丁目まで名付けられたものがあり、一巡できるようになっている。怪しいというかユニークというか、ユーモラスな釜やら何やら不思議なキャラがあった。次の鬼山地獄では、熱水を溜めた池を中心に、ワニ園が整備されていて何頭ものワニが飼育されていた。続いて鉄輪地区では最後となる白池地獄へ向かう。噴出した温泉が空気に触れて温度が下がると白濁することからこの名が付いたという。熱帯魚館も併設されていて、そこらを見学して一旦ひと区切りとする。
お昼を済ませたあと、車で少し移動して血の池地獄と龍巻地獄を見物することにする。酸化鉄などによって朱色に染まった池からその名が付いたそうだが、なんとも怪しい雰囲気である。特にこの地獄ではオリジナルの土産物が多くあったようだが、威勢のいい売り口上よろしく、池の沈殿物を集めて皮膚病に効く軟膏として売られていた。お隣の龍巻地獄は、これまでの地獄とは少し様子が違い、間欠泉が見学できるようになっている。30~40分休止したあと、数分間温泉がわきあがるということで、近くにはその説明が出ていた。ちょうど居合わせたときには温泉が噴出しているところで、しばらくその様子を見ておくことにした。
まだまだ時間はあるので、地獄めぐりを終えて、近くの別府ICから高速に入りしばらく南下する。臼杵ICで降りて臼杵の磨崖仏の見学に向かう。ここも有名な場所なのでいまさら説明する必要もないが、以前から一度は行ってみたいと思ってた場所である。一般には臼杵石仏という名で知られているが、全部で59躯が国宝に指定されている。磨崖仏とは簡単に言ってしまうと崖などに刻まれた仏像のことであり、詳しい記録などは残ってないがここ臼杵の磨崖仏は平安後期から鎌倉時代の作と言われている。1000年もの間、風雨に曝されながらも今日その姿を見ることができる貴重な存在である。 臼杵ICからは2キロほどと近い場所にあり、特に迷うこともなく到着、見学料を払って早速見物に行くことにした。
雨が降り続ける中、足元はやや悪いものの全体としてはきれいに整備されているようだった。国宝指定されたことも大きいと思うが、磨崖仏の保存に力が入れられて立派な屋根が組まれていた。見学できる石仏群は大きく分けて3つあり、それぞれホキ1号といったような呼ばれ方をしている。ホキというのは地元のことばで石の壁のことを示す。材質的にはもろい花崗岩が主で、そのためとても崩れやすく、それでも1000年もの間、よくもまぁここまで残ったものだと思う。偶然にも地元のボランティアの方が案内しているところに出くわし、興味深い話をとても丁寧に聞くことができた。とにかく、古の世界に思いを馳せるいるだけでも一見の価値ありだと思う。
石仏見物を終え、今夜のお宿へ向かう。結局、今日は1日中雨が降り続けてしまった。帰りの高速道路も高台を通るところはちょうど雲の中に入ってしまい、ひどいところだと視程は50メートルもなく、前の車のテールランプを追うのがやっとだった。車での移動なので、あまり文句を言っても仕方ないが、期待してた別府湾SAからの眺めはまったくダメ、ただ真っ白な濃霧の中の世界だった。大分、別府を通り抜けさらに北上し、日出JCTを中津方面へ折れたあと、大分空港へは向かわず宇佐方面へ進む。そうか、ETCの割引が効くのか…。それほど距離を走った気はしなかったが、割引1000円ということはほぼ50%OFFである。たった1000円のお得感でも心理的に感じるものは少なからずあるように思えた。
2日目
予定は未定(?)と言いながら決めてあったことがひとつ、今回は「安心院」というところに宿泊することにしていた。地元の人か、よほどの地理マニアでもなければ読めない難読地名だと思うが、「安心院」と書いて"あじむ"と読む。四方を山に囲まれた何にもないのどかなところだが、すっぽんとワイン、そして鏝絵で有名なところと紹介されるようである。泊まった宿はホテルというよりノスタルジックな香りのする旅館といったところで、大きめの和室に大浴場ととてものんびりすることができた。食事は決して豪勢とはいえなかったが、それでも"普段着"レベルのバイキングで十分満足だった。
残念ながら、すっぽん料理には手が出なかったが、二日目には宿近くにあったワイナリーを見学、 高台に広がるブドウ畑の中には立派なワイン工場と貯蔵施設があり、仕込みをするラインや醸造中のワイン樽など、建物は自由に見みてまわることができるようになっている。あまり知られてないようだが、安心院のブドウは九州一とも言われ、西日本でも屈指のワイン産地らしい。小洒落れた建物で試飲もできて、なかなかの穴場だと思った。これまた残念なことに、車の運転があったので試飲はできなかったが、クセのない良質なワインだという。ちなみにこのワイナリーはいいちこで有名な酒造メーカーが経営している。『安心院』という銘柄を目にしたらひとつお試しを♪
ワイナリーの次は毎度の町歩きに向かう。さて「鏝絵(こてえ)」についてだが、漆喰を用いて作られたレリーフ画のことで、左官職人が鏝で仕上げていくところからその名が付いたという。その昔、安心院の地には鏝絵の有名な左官がいいて、その弟子を多く排出したため、多くの"作品"が残っているという。スケールは違うが、もしかしたらフレスコ画なんかも建物に刻み込むという意味では通じるものがあるのかもしれない。この鏝絵は、緻密な芸術品というよりも、日常目に触れるものとして縁起物や滑稽画を画材としたものが多く、母屋や蔵を改築するときなどに外壁の装飾として用いられたようである。安心院の町はかつて交通の要所として賑わった時期もあったらしく、多くの富を築いた人が鏝絵に興味を示して盛んになったとも言われている。最後に、耶馬溪の手前にある仙の岩という絶景スポットに寄ってみたが、何の気なしにあった看板に誘われるかのように深見五重塔へと向かうことにする。本当に何もない田舎道を奥に進むと、立派な五重塔が突如現れ少々びっくりしたが(追記:ある方が故郷への感謝の念を込めて、廃寺跡に私財を投げ打って建てたらしいですね。)有名な観光スポットではない土地でも探せばいろいろあるものだと思った。
ところで、2日目は昨日と打って変わって春らしいこの上ないいい天気だった。安心院を後にして次に宇佐神宮へと向かう。宇佐神宮といえば、全国津々浦々にある八幡さんの総本山である。宇佐には以前立ち寄ったことがあったが、宇佐神宮までは足を延ばしてないので、この機会に寄ってみることにした。伊勢神宮と並んで全国的にも有名な神社なので、やはり日本人なら一度は来ておくべき場所かな?とも思う。道路沿いには満開の桜がちょうど見頃を迎えており、まさに春爛漫といったところだった。車を降りてきれいに整えられた参道を抜けて参拝に向かう。敷地にはなぜかSLが置いてあったが、橋を渡り緑が多い方へと進む。桜の華やかさと厳かな雰囲気にあらためて自分は日本人なんだなということを認識した。内宮の本殿まで行き着きお参りを済ませ、戻る途中で下宮にも寄ってみた。心地よい気分にそれこそ一日中のんびりしててもいいくらいだったがそうも行かないので、とりあえず近くのお店でお昼をとることにしよう。大分名物を集めたメニューがあったのでそいつをいただくことにする。あみ入りご飯に鳥天ぷら、そしてだんご汁が付いてくる。そのだんご汁だが、お殿様の好物だった鮑の腸が手に入らず小麦粉を練って太く太く延ばしたものに由来するとも言われている。野菜たっぷりの味噌仕立ては山梨のほうとうに近いかもしれない。
残り時間もわずかとなってきたが、宇佐神宮の次に熊野磨崖仏へ行ってみることにした。宇佐駅の近くからしばらく日豊線沿いに車を走らせ、途中から山道へと分け入っていく。その先のやや分かりづらい場所に入口があり、危うく見落としてしまうところだった。駐車場に車を止め、見物料を払い緩やかな山道を登っていくと徐々に勾配はきつくなり、息が上がってくるのが分かった。しかし、、、実はその先が本番であることにやがて気がつく。鬼が一夜にして積み上げたという伝説の石段はかなり急峻で、まるでロッククライミングのようだった。(余談:この一夜の話しはいろいろなところで紹介されていますので、詳しくはそちらを検索してみてください。)その石段を登っていくと、岩壁に刻まれた巨大な磨崖仏が突如現れるのだが、これまた圧倒されるばかりで、いつからこんなものが存在していたのか、どうしてこの場所なのか、にわかに信じがたいものである。国東半島にはこのように歴史的価値のあるものがあちこちに点在して、なかなか興味深いところのようである。下調べはほとんどしてなかったので見落としがあったかもしれないが、探せばもっともっとありそうな感じがした。
さて、帰りも大分空港を利用することにしているのだが、昭和の街・豊後高田には以前にも来たことがあるので今日はパス。あのときはバスで国東半島をぐるっと海沿いに一周したが、今日は西から東へ峠を越えに挑む。といってもバイパス道が整備され、立派なトンネルでショートカットできてしまうので少し拍子抜けの感がある。それでも山登りコースを歩いていくと頂上から絶景が拝めるらしいが今日はさすがにその余裕はなく、とりあえず両子寺(ふたごでら)の仁王像だけ見ておくことにした。山深い静かな木立にでんと立った仁王像は想像してたよりもはるかに立派で、なかなか絵になっていた。
国東半島を横断して海が見える場所で休憩していたところ、大分空港が見渡せる場所があることを知り、少しだけ遠回りしてみることにした。帰りの便までは余裕をもっていたので、時間はまだ少し残っている。ようやく車が1台通れそうな急坂を登っていくと、最後にぱぁっと視界が開けた展望台があった。桜の木のもとで花見をしてた若者たちはちょうど撤収するところで、静かになったあとはその雄大な眺めを独り占めすることになった。空港近くの営業所まで戻りレンタカーを返却したあとは、もう何もすることがないのでしばらく時間をつぶすことを考える。大分空港にはカードラウンジがなくどうしようか悩んでいたところ、レンタカーを返す前に寄ったガソリンスタンドでもらったレストランの割引券のことを思い出し、そいつを使ってお茶でもしておくことにした。メニューをぱっと眺めていたところ、佐世保バーガーならぬ湯布院バーガーというものを見つけ、こいつはいい!と試してみることにする。食感といい、野菜とのバランスといい、某チェーン店で出てくるようなような薄っぺらい味のハンバーガーとはまったく違う食べ物である。全面パノラマの席で、広がる海をバックに飛び立つ飛行機を眺めながら、ちょっと贅沢して小腹を満たす、、、ああ、なんて優雅なひとときだろう。(笑)思いつきで来た2日間だったが、予想以上に中身の濃い2日間になった。